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【アンチエイジング医学にもとづく生活習慣改善/身体活動とアンチエイジング】
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〔P186-188 身体活動の可能性〕
運動療法というよりは、身体活動。
通勤のために歩行、階段、家事における体の移動など、日常生活の動作をすべて含めて身体活動と理解する。
■ 多様性に着目した身体活動(運動)の分類■
運動 高齢者 コンディショニング 生活習慣病治療 競技スポーツ
強さの指標 自覚症状 自覚症状 自覚症状 心拍数
心拍数 心拍数 心拍数 AT
VO2max
頻度 2-5回/週 2-3回/週 3-5回/週 5-7回/週
持続時間 10分から 10分から 20分以上 種目による
活性酸素システム 関連少ない 制御 制御 時に亢進
長寿への効果 あり あり あり 種目による
(転倒防止効果) が一般的になし
対応する英語 Physical Activity Leisure Activity Fitness, Exercise Competitive Sport
Physical Activity
健康づくり ○ ○ ○
体力づくり ○ ○ ○ ○
<身体活動とアンチエイジング>
・身体活動のアンチエイジングへの可能性は、運動習慣が寿命を延長させるか否かを研究することで明らかになる。
・ 2003年3月米国スタンフォード大学のMyers Jらは、6213名の男性を約6年間追跡調査し、運動能力が全死亡率の強力な予測因子であることを示した。
・ 運動負荷試験で8メッツ以上の運動能力を有しているものでは、明らかに予後がよかった。
・ 8メッツの運動能力:1時間8kmペースの速歩、乗馬なのに相当する。
・ 体力の判定基準のひとつである運動負荷試験を施行し、その結果を寿命という健康の主な指標に結びつける点で身体活動の可能性を明らかにしている。
・ デンマーク、Schnohr Pら、7023名の対象者を5年間追跡調査し、身体活動(Leisure-Time Physical Activity)を4分割した最も高い活動群では、最も低い活動群に比べ、男性で約30%、女性で約35%死亡率が低いことを示した。
・ 米国ピッツバーグ大学Brach JSら、平均年齢74.2歳の女性229名を対象に、14年間追跡調査を行い、常に行動的な生活をしている女性とほとんど活動していない女性とを比較すると前者では、明らかに日常生活上の支障が少ない。
●身体活動の可能性は、寿命を延長させるだけでなく、クオリティーオブライフ、生活の質を高める上において重要。
<身体活動と血管障害発症抑制>
・ 身体活動は、死亡率の低下を介した寿命の延長だけでなく、冠動脈疾患、脳血管障害発生を抑制する。
・ Maiorana Aら、血管拡張性に働く一酸化窒素(nitric oxide; NO)と身体活動との結びつきについてまとめた。
有酸素運動を中心とした身体活動はNOを増加し、血流を安静時の3-6倍に増すことが示され、動物実験では3-4週間の身体活動継続によってNO産生増加が認められた。
NO産生増加は身体活動がeNOS(血管内皮依存性NO合成酵素)を増やすことによって生ずる。
過度な運動は、体内の抗酸化物質が減少し、加齢に伴う血管硬化への身体活動の硬化も低下してしまう点。
・ 動脈硬化を慢性の炎症過程と考えた場合の指標である高感度CRP(high-sensitive CRP: hCRP)に関する身体活動の影響が、Ahramson JHらにより研究された。
1ヶ月のうち身体活動を行う回数が増えるほど炎症および動脈硬化の指標であるhCRP値が抑えられ3日に2日の身体活動では、約40%低下した。
身体活動が抗炎症作用によって「アンチエイジング」に寄与する可能性を示唆する。
・ 脳血管障害に関して
2003年、Lee CDがメタ解析をStroke誌に掲載。
症例追跡研究では、身体活動度の高い人々は、脳血管障害発症の危険性が64%低下すること、身体活動を4分割して最も活動度の高い人は低い人に比べて25%は症危険性が低下する。
・ 身体活動の発癌抑制効果もその可能性が十分期待でき、大腸癌、前立腺癌、乳癌などの発症抑制効果が報告されている。
・ 米国フレッドハッチンソンセンター:1週間に1.25-2.5時間の速歩によって乳癌の発症率が18%減少したという報告。
■ アンチエイジングのための身体活動実践■
禁忌項目:
健康高齢者:なし
糖尿病:高/低血糖、眼底出血
高血圧:220-250以上
高脂血症:なし
虚血性心疾患:胸部症状、心電図変化
骨粗鬆症:痛み、関節可動域制限
1.メディカルチェック
1)問診、身体所見、臨床検査
リスク解析、・服薬チェック
2)合併症チェック:特に整形外科的合併症チェック
3)運動処方関連:心電図―ダブル・プロダクト
(心拍×収縮期血圧)―呼気ガス、乳酸(必要に応じて)
2.運動処方
1)運動種目
1) 日常生活内身体活動:レクリエーショナル アクティビティー
2) 有酸素―レジスタンス トレーニングストレッチングの3種類が基本
息止め(禁)、骨粗鬆症では腹/背筋トレーニングも行う
2)運動強度
1) 50%VO2max(最大心拍の60%):138―年齢/2を目安としても良い
2) RPE(rate of perceived exertion)、Borgの指数
RPE=9 “楽である”:50歳以上では110/分を目安とする
3) 自転車負荷では25W/2分程度の多段階負荷を基本とする。
8メッツ(metabolic equivalents)がアンチエイジングのための身体活動の指標
3.5ml/kg/分 8メッツ:8km/hrのジョギング、乗馬、溝堀り
4) 運動終了後15秒から5分にかけての心拍数は注意する。
AT:有酸素的エネルギーに無酸素的エネルギー産生が加わるポイント
換気ガス、乳酸濃度(4mM)などから求める
3)運動時間
1) → 予防としては10分間からスタート → 1週間(1ヶ月単位)で把握
2) → 治療としては30分/日 → 1週間(1ヶ月単位)で把握
4)運動頻度
1) 3日坊主を繰り返すー1週間3日以上
2) 運動週間開始の時点と途中、および、ゴール設定を分ける。
3.フィードバック
血糖・中性脂肪 ― 血圧 ― コレステロール・心室性期外収縮―
1週間 1ヶ月 2-3ヶ月
→ 3ヶ月で運動耐用能はほぼプラトーになり、心機能改善は6ヶ月。
〔P189-191 有酸素運動とアンチエイジング〕
●酸素呼吸をしている生物は、有機物中の水素を終局的に酸素により酸化して水をつくる。
グルコースや脂質など有機物中の水素が直接酸素によって酸化されるのではなく、多くの場合、有機物中の水素は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの酸化型(oxidized form of nicotinamide adenine dinucleotide; NAD+)、または、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸の酸化型(oxidized form of nicotinamid adenine dinucleotide phosphate; NDAP+)に受け継がれ、その後、一連の酸化還元酵素による電子伝達系の作用により、最終的に酵素に伝えられて、水が形成される。
各物質の前の還元型物質がその直後の酸化型物質を還元し、この繰り返しによって分子状酸素を水にする。
ミトコンドリアの電子伝達系により、酸化的リン酸化と共役して、水の形成とともにエネルギーを獲得。
有酸素運動能は、外気から酸素を取り込みミトコンドリアにおいてエネルギー源であるアデノシン5’-三リン酸(adenosine 5’-triphosphate; ATP)を合成する大がかりなシステムである。
その酸素運動能の指標:最大酸素摂取量
最大酸素量:酸素運搬機構である呼吸循環系と酸素を消費する最大の組織である骨格筋の機能を統合したものである。これらの器官や組織を調節する内分泌系や神経系も関与。
<加齢に伴うエネルギー産生機構の問題点>
・加齢に伴い、筋と身体全体の有酸素能力が減少。
・筋量の減少はその有酸素能力におおきな影響を及ぼす。
・In vitro, in vivoの両面から研究が進められている。
・ バイオプシー法で筋を採取し、筋の酵素の活性を測定し、運動回復期の酸化的リン酸化系の変化を観察した報告。
→ Conleyら、25歳から80歳のヒトを対象にバイオプシー法を用い、直接、細胞内のエネルギー物質であるエネルギーリン酸化合物の測定を行った。
・外側広筋を採取し、筋組織に含まれるアデノシン三リン酸濃度、総クレアチニン濃度とクレアチンリン酸などの濃度を測定した。
→ 加齢に伴うリン酸化合物の濃度の減少は観察されなかった。
・電気刺激による回復期のリン酸化合物を測定し、その酸化能力を推定した結果、高齢者群は、若いヒトに比べ、50%程度低い。
・低下の原因:ミトコンドリアの容量密度が高齢者群で統計的に有意に低い。
● エネルギー源であるクレアチンリン酸は電気刺激の時間と共に減少する。
● 筋収縮を続けることによりクレアチンリン酸の減少は観察される。
● クレアチンリン酸は、刺激停止後、徐々に回復する。
→ この回復の仕方が、加齢の影響が観察される。
● クレアチンリン酸は、細胞内で、クレアチンとATPからクレアチンキナーゼによって合成。
● クレアチンリン酸合成能は、大きくATPの合成能に依存する。
<酸素摂取量と老化>
・ATPを常に供給するためには、エネルギー供給系であるTCA回路の駆動を円滑に進めることが条件である。
・有酸素的なエネルギー産生能は、その酸素の取り組みに依存する。
・個体の酸素摂取能力と筋細胞でのエネルギー消費に依存する。
酸素運搬能力や筋でのエネルギー消費量は、個体によって異なり、最大酸素摂取能力を決める大きな要因となっている。
・ Houmard JAら、加齢に伴い、最大酸素摂取量、および、体重あたりの最大酸素摂取量の低下が起こることを報告。
→ 加齢に伴い直線的に最大酸素摂取量が減少。
原因:加齢に伴い、動脈壁の脂質増加、結合組織増加による血管変性が大動脈、冠動脈、脳動脈、などに起こる。気道の粘膜萎縮、せん毛運動の消失、粘膜下組織の繊維性変化、また、気管支壁の粘膜、筋、腺などの萎縮が原因。
肺:肺胞面積の減少、機能肺胞の減少、肺胞血管壁の肥厚などが加齢に伴い、現れる。
胸壁のコンプライアンスが減少、肺活量および1回換気量が減少。死腔が増加し、肺胞―肺胞血管の間の拡散能も低下。運搬機能変化の結果、最大酸素消費量(VO2max)は、年齢とともに直線的に下降する。
筋組織においては、TCA回路を構成する酵素活性の低下が観察されている。
●加齢とともに、最大酸素摂取量は、低下する。
<加齢と酸素活性の変化>
・ ミトコンドリアは糖質や脂質を分解、効率よくATPを産生する細胞内器官である。
・ ミトコンドリアが発育や老化に伴い、その形態や機能が大きく変化する。
・ Conleyら、ミトンドリア容積密度が成人に比べ高齢者で有意に低い。
・ ミトコンドリアそのものの酸化能力も成人に比較し50%低い。
・ 酸化能力の低下は、酸化酸素の活性化の低下を意味する。
・ ミトコンドリアのチトクロムCやクエン酸合成酵素の活性が加齢に伴い減少。
・ 酵素活性の低下:老化に伴い、ミトコンドリアDNAの突然変異、ミトコンドリア蛋白質合成の低下、酸化的ストレスによる損傷などが原因。
・ ミトコンドリアDNAの加齢に伴う変化:Barazzoniら、ミトコンドリアDNAコピーは骨格筋や肝臓で減少する。
・ 若いラットに比較して、遅筋であるヒラメ筋で著しい減少(-40%)が観察。肝臓において50%の減少。
●加齢とともに、体重あたりの最大酸素摂取量は低下する。
〔P192-194 レジスタンストレーニングとアンチエイジング〕
● レジスタンストレーニング:
筋力トレーニング、ウエイトトレーニングなどと基本的に同じであるが、日常生活の場でごく普通にダンベルをもったり、ゴムのチューブを使って身体を動かすなど、身近な、負荷材料を用いて骨格筋に負荷をかけ、筋力のみならず、筋持久力や柔軟性を高めるなど、活動力のある筋機能を獲得することを目的に行われている。
<加齢に伴う骨格筋機能の変化>
・ 筋力(力の大小)、瞬発力、持久力などの筋の機能は、筋線維タイプと筋量に依存。
・ 加齢に伴う筋量の低下は、筋力に反映する。
・ 加齢に伴う瞬発力の低下の原因:筋線維タイプII線維の減少とエネルギー代謝系の変化。
・ 神経細胞の変化から:サイズの大きな有髄線維の数が加齢に伴い減少し、部分的な髄鞘の欠如、絞輪間距離の短縮などが瞬発力低下の原因。
・ 加齢に伴う筋持久力の低下の原因:筋萎縮に伴い筋に貯蔵されているエネルギー源の減少、筋への酸素運搬能力の低下、筋での酸素利用能力の低下、神経系の機能の変化。
<加齢に伴う骨格筋細胞の変化>
・加齢に伴い骨格筋細胞内の収縮装置、エネルギー産生装置などに変化がみられる。
・ 収縮装置の変化:顕著なミオシン重鎖IIBの減少が観察。
→ 速筋線維の数の減少を反映。
・ ギブスやベッドレストのような不活動に伴う変化:
速筋線維より遅筋線維の減少をもたらす。
・ 速筋線維の減少は、老化に伴う変化。
・ エネルギー産生装置の変化:ミトコンドリアの量と筋細胞萎縮に伴う細胞質の減少。
・ 有酸素運動でのATP産生や酸化的リン酸化系の酵素活性の減少をもたらす。
・ 筋細胞萎縮に伴う細胞質の減少は絶対的な解糖系の減少を意味する。
<高齢者のレジスタンストレーニング>
・ 加齢に伴い、アンドロゲンや成長ホルモン分泌が減少する。
・ レジスタンストレーニングにおける筋の成長は筋組織内部で産生されるIGF-I, FGF, TGF-βなどの成長因子に依存する度合いが大きいことが明らかにされた。
・ 80-90歳の高齢者でもレジスタンストレーニングにより筋の肥大が観察された。
・ 筋の肥大に伴う筋細胞の肥大機構や増殖機構については未知なる部分が多かったが、この両機構にサテライト細胞などの幹細胞が深く関与していることが報告
→ 骨髄幹細胞や肝幹細胞の役割が示唆。
<レジスタンストレーニングと骨格筋機能>
・加齢に伴う骨格筋の変化:筋横断面積と総筋線維数の減少
・ 筋横断面積の減少:速筋線維の萎縮による。
・ 筋線維数の減少においては、速筋線維を支配する運動単位の減少が示唆されている。
・ Romanら、レジスタンストレーニングによって、上腕二頭筋の筋力が増加し、速筋線維が有意に肥大、と報告。
・ Fronteraら、上肢だけでなく下肢部に対するレジスタンストレーニングで、速筋線維や遅筋線維が肥大すると、報告。
・ レジスタンストレーニングによる筋線維型と遺伝子発現においては議論の余地があるが、総合的にレジスタンストレーニングは、加齢に伴う骨格筋の機能低下を抑制し、改善するようである。
<レジスタンス運動の生活習慣病に対する効用>
●糖尿病予防
・ 血中インスリンは活動時間の長さとともに低下。
・ 活動している筋の取り込みはインスリン感受性の増大ともとれるが、筋活動そのものが糖の取り込みを促進する機構が存在することが推測。
・ AMP-activated protein kinaseによるGLUT-4の筋細胞膜上へのtranslocationによるものと報告。
・ 筋活動に伴う糖の取り込み:インスリン感受性の増大をもたらすことと機械的刺激による糖の取り込み機構の活性化による。
・ レジスタンストレーニングによる筋肉づくりと積極的な持久的筋活動がもとめられる。
●肥満
・ 肥満は、運動不足、食べすぎ、熱産生障害、遺伝などの因子におり起こる。
・ 肥満は、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化などを引き起こすリスクファクターの一つ。
・ 肥満に対する運動効果:インスリン抵抗性の改善、代謝異常の改善、体脂肪の減少による体重の減少。
・ 肥満に対するレジスタンス運動を有効に活用すれば、筋力、筋持久力を増強し、有酸素運動と同じように体組成を改善することができる。
●高血圧
・ 運動不足による肥満、大量アルコール摂取に伴う血管平滑筋の収縮、高コレステロール食によるLDLコレステロールを因子とする動脈硬化などが、高血圧の成因としてあげられる。
・ 高血圧が長く続くと、血管障害、心疾患、脳血管障害等を引き起こす。
・ 運動による効果:利尿効果が高まり、心拍出量の減少、血漿粘度の低下、血管拡張に伴う血管抵抗の低下。脂質代謝が亢進する。
・ これらの効果は、軽度の持久的運動であり、怒責を伴うようなレジスタンス運動はやってはならない。
●高脂血症
・ 中性脂肪とコレステロールが異常に増加した状態。
・ 一次性:家族性に発生
→ 中性脂肪、コレステロールの代謝処理障害から発生することが多く、角膜周辺に白色輪、皮膚にはコレステロールなどの沈着、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、壊疽などの発生原因の一つになる。
・ 二次性:肥満症、糖尿病、ネフローゼ症候群、甲状腺機能低下症、閉塞性黄疸。
・ 運動による効用:高比重リポ蛋白が増加
・ 高比重リポ蛋白:末梢細胞の余剰コレステロールを引き抜き、そのコレステロールを超低比重リポ蛋白、中間型リポ蛋白、低比重リポ蛋白へコレステロールエステル転送蛋白の働きで移す。
・ 低比重リポ蛋白のコレステロールは肝臓に運ばれる。
・ 動脈硬化形成には、抑制的に働く。
・ 中性脂肪の分解:膵リパーゼ、リポプロテインリパーゼ、ホルモン感受性リパーゼによって起こる。
・ 骨格筋での脂質の取り込みに関与するリパーゼは、リポプロテインリパーゼであり、貯蔵中性脂肪の脂肪分解は、ホルモン感受性リパーゼによって行われる。
・ 運動時のホルモン感受性リパーゼ活性を刺激するメカニズム:血中カテコールアミンの増加に伴い、βアドレナリン受容体―アデニル酸シクラーゼ系が活性化され、A-kinaseを介してホルモン感受性リパーゼ活性が増加する。
・ 筋肉活動(機械的刺激)そのものが何らかの機構で中性脂肪分解を亢進させるものと考えられる。
〔P195-199 ストレッチとアンチエイジング〕
●ストレッチング:筋、靭帯、腱などの組織を引き延ばして、関節の可動域を広くする目的で用いられる動作。
●ストレッチングの目的:
1)関節の可動域を広くする
2)筋、腱、靭帯などの障害を予防する
3)筋の緊張を和らげリラックスさせる
4)筋の疲労回復を促進する
高齢者の場合:筋や腱が萎縮傾向にあり、物理的に伸張する(ストレッチ)ことの重要性。
<ストレッチングと柔軟性が運動能力に及ぼす効果>
柔軟性とは:関節周りの可動範囲(range of motion: ROM)の程度を表すもの。
・柔軟性の主な制御因子は、関節を構成する骨構造と軟部組織である。
・筋肉、筋膜鞘、腱、靭帯あるいは関節嚢などの軟部組織はストレッチングで柔らかくすることが可能である。
・ 関節の可動域を少なくする最大の要因:筋を覆う筋膜鞘の伸展性が低いことによる。
・ ストレッチングの最大のねらい:筋膜鞘の柔軟性を高めて可動域を大きくすること。
・ 関節の可動域が大きいこと:ダンスや体操、フィギュアスケート等のスポーツでは動きの表現系としての優れた柔軟性は欠かせない要素。
<筋の持久性に及ぼすストレッチングの効果>
・効果的疲労回復の手段:ストレッチングとマッサージが利用される。
・ 男子大学生6名、前腕の把握作業、運動は、最大筋力の1/3の重りを2秒に1回の店舗で持ち上げ、ほぼ90回で運動ができなくなった。その後、約8分の休息をはさみ、同じ運動を5セット行った。その各セット間の休息時にストレッチとマッサージを行った場合と、行わない場合において、比較。
・ 休息のみ:セットが多くなるに伴い急激に運動回数が減少し、5セットめには初めのセットの30%に疲労する傾向をしめした。
・ ストレッチとマッサージをした場合:3セットまでは、ほとんど疲労がみられず、5セットめでも、80%くらいの運動回数を維持できた。
●運動を繰り返すときの休息時のストレッチングの効果をしめすもの。
<ストレッチングの種類>
●静的ストレッチ
・筋を完全にリラックスさせた状態でゆっくりと関節の可動域を広げていく方法である。
・ 伸張させる筋の姿勢を長く保持することにより、伸張反射を弱めながら目的とする筋をストレッチすることができる。
・ 筋の異常な負荷をかけることもなく、安全性の高い方法である。
●動的ストレッチ
・反動を利用して、動的に行うストレッチの方法である。
・ 動的に筋を伸張させるために、身体部分を動かすスピードと重量を活用する技法である。
・ スピードをつけてストレッチするために伸張反射が働く。
・ 目的とする筋群を伸ばそうとするためのストレッチから発生する力と、同じ筋群の反射性の収縮により発生する力とが方向の相反する力の組み合わせは、伸長されようとする筋に強い衝撃を引き起こすおそれがある。
・ ストレッチ速度に十分に注意しなければならない。
●proprioceptive neuromuscular facilitation (PNF)法
・伸張しようとする筋を等尺性収縮させ、その後、リラックスさせ、次にストレッチさせる方法である。
1)伸張させようとする筋を伸展位におく
2)その筋にゆっくりと静的収縮を行わせる(約5秒間)
3)その後、筋をリラックスさせる。
4)リラックスさせたのち、ストレッチングに入る。
5)以上の手順を3-5回繰り返す。
・ 最初の伸展位によって、目的の筋の筋紡錘が刺激され伸張反射を引き起こし、筋収縮が生じる。その伸展位からわずかなものでかつしばらく保持されるならば、筋紡錘の感受性はリセットされ、ストレッチングされている筋はリラックスする。
・ 静的収縮により、ゴルジ腱器官が刺激されて目的とする筋のいっそうの弛緩をもたらす。それにより、伸展の範囲がさらに増す。
・この方法は、ストレッチングに加えて、静的筋収縮が加えられるので、関節の可動域の増大に加えて、筋力増加の可能性も生じる。
● コンビネーションストレッチング
・主動筋をゆっくり収縮させると拮抗筋は相反性の抑制機構が働きリラックスする。
・長座姿勢で膝を伸ばし、足先を膝の方向に寄せる(足背屈)。同時に大腿四頭筋を最大に静的収縮させる。
<ストレッチングの実際>
正しい方法のポイント
1)リラックスして、ゆっくりと、じっと伸ばし続ける。
2)楽な、やりやすい得意なほうからはじめる。
3)一気に伸ばすのではなく、分担して、一部の筋を意識してのばすようにする。
4)いずれの部位の筋をストレッチするにせよ、まず背筋や腰を伸ばしてから行う。
5)呼吸は重要なポイントである。ややゆっくりと吐きながら行い、息を止めてはいけない。
6)目的とする筋を伸ばし続けることが大切で、そのためには、初めは弱く徐々に強くしていく。
7)筋は冷えると短縮してしまうので、軽い全身運動で身体を暖めたのちに、身体を冷やさないようにしながら行う。
8)風呂上りは、体温も上昇し、柔軟性も高められるので、ストレッチングを行うには、最適である。
〔P200-202 アンチエイジング身体活動(運動)処方〕
<運動実施の現状>
○運動やスポーツを全く行わない人(スポーツ不実施人口)の割合:20-30歳代では20%程度。
40歳以降で増加し、70歳を超えると約50%となっている。
→ 70歳以上の高齢者の約半数は、まったく運動をしていない。
加齢に伴う非実践者の増大をもたらす要因は、退行性疾患
[動かないこと(運動不足)]は、退行性疾患の<原因>であるが、同時に(適応)ともなっている。
運動実施状況から高齢者を区別すると、
1)やる人は、ほっておいてもやる。
2)やらない人は、努力しても容易ではない。
→ 運動や身体活動の習慣を定着させること
3)できない人は、できない。
→ 心理的バリアをとって、動くことの喜びを沸きあがらせる。
<高齢者の身体活動増進のための行動科学理論>
高齢者の活動的生活習慣獲得へと誘う行動科学理論
・ 対象者の選定(Targeting)
・ 行動変容のための媒介変数(Mediator)
・ 行動変容のための介入(Intervention)
● 対象者の選定(Targeting)
定義区分として運動習慣ステージが利用されている。
■ トランスセオレティカルモデルにおける運動習慣のステージ■
無関心期:運動習慣をもたず、今後6ヶ月以内に運動を開始する意志もない者
関心期:運動習慣をもたないが、今後6ヶ月以内に運動を開始する意志がある者
準備期:不定期だが何らかの運動を行っている者
実行期:定期的に運動を行っているが、その習慣が6ヶ月以上継続している者
維持期:定期的に運動を行っており、その習慣が6ヶ月以上継続している者
対象者を区分(Segmentation)し、その内の特定区分を対象として選定(Targeting)したうえで、その各々の特性に合わせた適切な働きかけ(Tailoring)を行う。
■ 対象区分(Tageting)のための変数■
内容 評価
人口統計変数 性・年齢・職業・人種 だれ?
地理変数 居住地・出生地 どこ?
身体変数 身体能力・疾病履歴 特殊なニーズ/行動のバリアの探索
行動変数 生活パターン 何を行い、何を行わないか?
メディア利用度 どこから情報を得るか?
行動ルート どこで出会うか?
心理変数 思考と表現の枠組み 何を考え、何を信じているか?
思想信条・態度と心構え 学習可能性を最大限にするには?
●行動変容のための媒介変数(Mediator)
■行動変容のための媒介変数(Mediator)■
変数
自己効力Self-Efficacy:
運動やアクティブな活動を行う上でのさまざまな特定阻害要因を克服する自信感。
社会的支援Social Support:
自分の行うべき行動変容に関して、アドバイスしてくれる人や理解・応援してくれる人がいるという認識。
意思決定バランスDecisional Balance:
適切な行動をとることの恩恵(Pros)ならびに取らないことの負担(Cons)に関する認識のバランス
行動的スキルBehavioral Skill:
行動変容を達成するための具体的実行行為(目標設定、セルフ・モニタリング、自己強化など)ならびにその認識の程度。
周辺環境Neighborhood Environment:
運動や身体活動を行う上で、自己の周辺に適切な環境が整っていると感じていている程度。
・これらのMediatorを改善させるようなプログラムを施行することによって、介入の学習効果を高めることができる。
●行動変容のための介入(Intervention)
行動介入(Intervention):Targetingを踏まえて、各人のBehavioral Mediatorを改善し、最終的に望ましい生活習慣が定着するようになるようなプログラムを提供すること。
〔P203-204 高齢者のための運動療法〕
<高齢者の健康づくりの目標>
高齢者では、身体諸機能の水準が低いことから、日常生活動作(activities of daily living; ADL)に障害が生じやすい。
● ADLの維持改善:高齢者における健康づくりの重要な目標。
● 高齢者が日常生活を自立して営むために必要なADL:起居、移動、家事、身辺
それぞれの能力を客観的に評価する方法(生活体力測定法)が開発されている。
・身体活動・運動を長期(5年間)継続することにより、生活体力は維持され、ADL障害の発生や死亡が抑制されることが確認されている。
<高齢者の生活機能維持増進のための身体活動とその方法>
身体生活機能の維持増進を図るための身体活動の実施方法:
長期基本型:多様な身体活動をできるだけ多く実施する。
一日あたりの身体活動量を増やす。
短期集中型:目的に応じた最適な運動条件(種類、強度、頻度、時間)を設定して、短期間に集中して行うもの。
専門家による処方や指導を受け、短期間に大きな効果をあげることができる。
<日常生活における長期基本型運動>
■ 年齢に応じた長期基本型運動■
前期高齢者(65―74歳)における活動
・ 能力に応じた仕事(フルタイム、パートタイム)
・ 知識や経験を生かした地域活動やボランティア活動
・ 知的、文化的学習活動
・ 興味や関心を生かした趣味やクラブ活動
後期高齢者(75歳―)における活動
・ 興味や関心を生かした趣味活動
・ 家庭内役割活動
・ 地域での相互扶助活動(ネットワーク活動)
● 起居能力を維持増進するための運動
床からの起き上がり動作(上体起こし動作):腹筋群(腹直筋、内外腹斜筋)
床や椅子からの立ち上がり動作:大腿四頭筋(脚伸展筋力)
→ 上体起こしや上半身の捻転運動による腹筋群の強化、スクワット、下腿の伸展運動、階段登行なのによる脚伸展筋群の強化運動が有効
● 歩行能力を維持増進するための運動
最大歩行速度の低下
→ 歩幅の減少、歩行率の低下、下肢関節(股、膝、足)の可動性の低下、単脚支持時間の短縮、両脚支持時間の延長。
→ 下肢の瞬発力や筋力、平衡性、敏捷性といった生理的機能の低下。
● 身体運動動作を維持増進するための運動
身辺動作には、衣服の着脱、整容、入浴、トイレ等。
肩関節を回したり、身体を屈めたりなどの動作。
肩関節や体幹部関節の可動性が主な制限因子。
● 手腕動作能力を維持増進するための運動
衣服のボタンかけ、裁縫、調理、食事、書字等
手指と前腕の粗大運動と指先の緻密な運動によりなりたつ。
指併せ運動、指のタッピング、手腕の回転運動。
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