【細胞医学とアンチエイジング医学】
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【細胞医学とアンチエイジング医学】
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〔P32-33 細胞医学の理解―細胞医学とは〕
細胞医学とは: 個体の性質や疾患を細胞のレベルで解明しようとする立場
利点:
個体では不可能であった強いストレスを細胞に加えて、その応答を探ることができる。
長い時間かかって個体に惹起される変化を短時間で検出することができる。
多数の検体を同時に処理することが可能である。
ハイスループットなスクリーニングなどに適している。
RNA干渉(RNAi)とよばれる技術:
特定遺伝子のmRNAを減じた際の効果を検討することも可能である。
マウスの特定の遺伝子を破壊してその効果を調べることにより、その遺伝子の個体における機能を解析する。マウスに由来する細胞も個体レベルでの解析と併せて用いられる。
胎児の繊維芽細胞(mouse embryonic fibroblast:MEF)がよく用いられる。
酸化ストレスに対する抵抗性と寿命との関連を指摘した論文(Nature 402, 309-313, 1999)
Shc:細胞内シグナル伝達系に関与する蛋白質
成長因子やサイトカインの受容体からのシグナルを細胞内の因子に中継する機能を果たす。
Shc遺伝子の一部を破壊したマウス:
個体レベルで酸化剤に対して高い抵抗性を示した。
平均寿命も野生型マウスに比べ約30%長い。
このマウスに由来するMEFは、正常マウスに比べて、紫外線照射や過酸化水素などの酸化ストレスによって誘導される細胞死に対して著しく抵抗性が高まっていた。
MEFに紫外線や過酸化水素を添加するとShcのセリン残基がリン酸化されるが、Shc遺伝子破壊マウスのMEFは、この処理に対して抵抗性があり、Shc遺伝子を導入すると、野生型マウスと同じ感受性を示すようになる。
Shcのリン酸化されるセリンをアラニンに置換し、リン酸化が起こらなくさせた変異体を発現させても感受性は戻らない。
2003年のNature誌
I型インスリン様成長因子(insulin-like growth factor type I; IGF-I)受容体の遺伝子2コピーのうち1コピーを破壊したマウスは、寿命が約30%長くなることが報告された。
IGF-I受容体に起因する細胞内シグナル伝達系の活性化が顕著に低下しており、その中にShcも含まれている。
<Shc遺伝子破壊によるマウス寿命の長寿化>
Shc遺伝子の一部を破壊したマウス(p66Shc(-/-)は、正常マウスよりも長寿である。
ヒトにおいて、遺伝的に早老症を発症する家系が存在し、その原因遺伝子は、おおくはDNA修復に関与するもの。
色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum)の患者由来の細胞:
DNA修復系の酵素を欠損している。紫外線に対し極端に感受性が高く、皮膚癌を高い確率で発症する。この患者由来の細胞を用いることで、実際に紫外線感受性が高いこと、原因となる遺伝子を発現すれば、この感受性が正常細胞と同様になることが示された。
〔P34-36 細胞の寿命とアンチエイジング医学〕
酵母細胞にも有限の寿命がある。
酵母:出芽により母細胞から娘細胞が芽(bud)を出すように出芽(budding)するように増殖する。母細胞には、出芽の痕跡が残り、何回も繰り返すことにより、蛋白合成の低下を生じ、最終的に分裂を停止する。
酵母の母細胞は、有限の分裂回数をもつ。
培地中のグルコース濃度を低下させると、分裂回数が増える。
線虫、マウス、サルなどすべての実験動物で、低栄養条件で飼育すると、長寿になる。
栄養条件が悪い際には、代謝活動を低下させ、個体の成熟を遅らせて来るべき栄養条件の改善を待って、成熟、繁殖につなげようとするもの。
栄養条件が極端に悪い場合:
酵母は胞子を形成。
線虫はdauerとよばれる個体に変換。
哺乳動物の一部は冬眠、という状態に移行する。
細胞の老化とは:正常細胞をシャーレで培養した場合に有限の分裂回数を示すことであり、分裂を停止した細胞では、増殖期の細胞と異なる遺伝子群が発現している。
分裂回数が有限である原因:テロメア依存性のものと、非依存性の要因に区別して考えられている。
テロメア:染色体の両端に位置する繰り返し配列のこと。
染色体構造を安定に保つ働きがある。
テロメア末端は複製できないため、一回分裂するごとにその長さが減少する。
分裂回数のカウンターとして機能する。
ヒト線維芽細胞:培養しても分裂回数は有限である。
テロメア長を伸長する酵素であるテロメアーゼを発現してやれば、無限に増殖する。
テロメアが分裂回数を規定している。
個体の老化と分裂可能回数との間には、相関なし。
細胞老化をもって個体の老化を直接分析することはできない。
若いヒトと老齢のヒトの線維芽細胞の間に分裂可能回数の差は認められなった。
哺乳動物であるマウスの線維芽細胞にテロメアーゼを導入しても、不死化されない。
要因:細胞周期に停止機構が働くため。
マウスの線維芽細胞に増殖停止をもたらすシグナル:癌遺伝子であるras
発癌に関与する異常なシグナルが細胞に誘起されると、細胞は増殖を停止し、個体の中での発癌を抑制しているのかもしれない。
テロメア非依存性の細胞増殖停止の要因
外界からのストレスによる遺伝子変異の蓄積も。
紫外線
酸化ストレスによるDNAダメージ
線虫やショウジョウバエの長寿の研究は個体レベルの研究である。
寿命と酸化ストレスとの関連が深い。
線虫からマウスにいたるまで、
インスリンやインスリン様成長因子(IGF)によるシグナル伝達系に変異が生じて
固体が長寿となる。
↓
活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)が減少する方向に作用する。
転写因子を通して
エネルギー代謝に関与する遺伝子の発現を低下させて
ROSの産生を減少させ、
同時にROSの除去に関与するカタラーゼやSODなどの酵素群の発現を誘導する。
ROS:蛋白質の変性にも関与する可能性があり、
変性した蛋白質の除去システムである熱ショック蛋白質(heart shock protein: HSP)の発現誘導は、線虫に長寿をもたらす。
ROSの生成:エネルギー代謝によってATPがミトコンドリアで合成される際に、副次的に生成され、ROSをゼロにはできない。
ROSの除去:カタラーゼやSODが触媒する反応によって除去される。
寿命がのびる
カタラーゼやSODが過剰に発現すると、寿命が延びる。
酸化還元反応を触媒するチオレドキシンをマウスで過剰に発現させる。
ミトコンドリア:酸化還元反応の主たる場、アポトーシスのシグナルを誘起する場。
低栄養条件下での代謝活性の低下、酸化ストレスの軽減、アポトーシスによる細胞死は、密接に関係。
<インスリンシグナル源弱による酸化ストレス抑制と長寿化>
インスリン/IGF シグナルの減少
↓
エネルギー代謝の低下
↓
ミトコンドリアを抑制(ATP合成の際に生成されるROSを減少)
↓
酸化ストレスを抑制(ROS産生減少、カタラーゼやSODの発現を誘導)
↓
長寿化
〔P37-38 転写因子とアンチエイジング医学〕
インスリン/インスリン様成長因子(insulin-like growth factor)のシグナル伝達系が個体の寿命に深く関係している。
<インスリン/IGFのシグナル伝達機構>
インスリン受容体からのシグナル
↓
PI3-キナーゼを活性化
↓
ホスファジルイノシトール-3-リン酸を産生
↓
Aktがリン酸化され、活性化する。
↓
細胞質に存在するForkhead型転写因子をリン酸化する。
↓
リン酸化されたForkhead型転写因子は核に移行できなく、転写制御能を失う。
フォスファターゼにより脱リン酸化されたForkhead型転写因子は核に移行してその機能を発揮。
まとめ: インスリン/IGFのシグナルは、Forkhead型転写因子の活性を阻害する。
(AktはForkhead型転写因子をリン酸化するこことで、核移行して転写調節するのを抑制する)
線虫のForkhead型転写因子: DAF-16
<線虫のインスリンシグナル伝達系の変異株が長寿になる>
インスリンシグナル伝達系の効率が低下する。
DAF-16の機能は、活性化され、その転写活性は上昇する。
DAF-16のDNA認識配列は、TTGTTTACで、この配列にDAF-16が結合し、その下流の遺伝子発現を制御する。
ある遺伝子がそのプロモーター領域にTTGTTTACを持っている場合にはDAF-16による発現制御を受ける可能性がある。
TTGTTTACの8bpの配列は、ゲノム上に多数見出され、DAF-16の結合部位の可能性が高い。
長寿となるdaf-2, daf-16変異株と野生株の遺伝子発現の差異をcDNAのマイクロアレイで網羅的に解析した結果は、
発現が増加している遺伝子が39個、
(熱ショック蛋白質、カタラーゼ、SODなど酸化ストレスに対応する蛋白質や、バクテリア抵抗性を賦与するリゾチーム、エネルギー代謝に関与する酵素軍などを産生するもの)
減少している遺伝子が20個同定された。
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